1. 膵臓癌とは

 膵臓は胃の後ろにある長さ20cmほどの細長い臓器です。右側は十二指腸に囲まれており、左の端は脾臓に接しています。背側は脊椎、大動脈、腎臓、腹側は胃、横行結腸に接しています。右側はふくらんだ形をしているので頭部と呼び、左端は細長くなっているので尾部といいます。頭部と尾部との間の1/3ぐらいの大きさの部分を体部と呼びます。肝臓から胆汁を十二指腸へと運ぶ通路である胆管が、膵頭部を貫通します。膵頭部の病気でしばしば黄疸が起こるのはこのためです。
膵臓の主な働きは、消化液をつくること(外分泌)と血糖を調節するホルモンをつくること(内分泌)です。 膵臓がつくる消化液は膵液と呼ばれ、膵臓の中を網の目のように走る膵管という細い管の中に分泌されます。細かい膵管は膵臓の中で主膵管という一本の管に集まり、肝臓から膵頭部の中へ入ってくる総胆管と合流した後、十二指腸乳頭というところへ開いています。肝臓でつくられた胆汁と膵臓でつくられた膵液はこうして一緒に十二指腸の中へ流れ込むのです。 膵臓でつくられるホルモンは、血糖を下げるインスリンや逆に血糖を上げるグルカゴンなどで、これらは血液の中に分泌されます。 膵臓にできる癌のうち90%以上は外分泌に関係した細胞、特に膵液を運ぶ膵管の細胞から発生します。これを特に膵管癌といいます。普通、膵癌といえばこの膵管癌のことをさします。内分泌細胞から発生する膵内分泌腫瘍については別項目を参照して下さい。
わが国では、毎年22,000人以上の方が膵癌で亡くなっています。しかし、残念なことに、その診断と治療はいまだに難しいことが知られています。膵臓は身体のまん中にあり、胃・十二指腸・小腸・大腸・肝臓・胆嚢・脾臓などに囲まれているため、癌が発生しても見つけるのが非常に難しいのです。その上、どんな人が膵癌になりやすいのかもあまりわかっていません。また、早い段階では特徴的な症状もありません。このような理由で、胃癌や大腸癌のように早期のうちに見つかるということはほとんどありません。膵癌とわかった時にはすでに手遅れということが多いのです。
現状では膵癌の有効な治療は外科的切除に限られているのですが、切除率は30~40%しかありません。膵癌の5年生存率は切除例では膵頭部癌13.0%、膵体尾部癌18.2%であるのに対し、非切除例では1%以下です。切除例と非切除例を合わせた膵癌全体では5年生存率が10%程度、生存期間中央値(MST)は10~12ヵ月程度と報告されています。

2.膵癌の危険因子は何か

 膵癌の原因はまだよくわかっていません。日本膵臓学会のガイドラインでは膵癌の危険因子として膵癌の家族歴、遺伝性膵癌症候群、糖尿病、肥満、慢性膵炎、遺伝性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍、喫煙があげられています。

3.膵癌の症状

 膵癌、特に早期の膵癌に特徴的な症状はありません。膵癌の方が病院へ来られた理由を調べてみますと、最も多いのは胃のあたりや背中が重苦しいとか、なんとなくお腹の調子がよくないとか、食欲がないなどという漠然としたものです。この他に、体重の減少などもよくおこります。このような症状は膵癌でなくてもいろいろな理由でおこるものです。比較的膵癌に関連のあるものとして、身体や白目が黄色くなる黄疸があります。この時は、身体がかゆくなったり、尿の色が濃くなったりもします。黄疸は、膵臓の頭部に癌ができて、胆管がつまってしまった時におこるのですが、胆石や肝炎などが原因の時もあります。
そのほか、膵癌ができると、糖尿病を発症したり血糖のコントロールが急に悪くなったりすることがあります。

4.膵癌の診断

 漠然とした消化器症状の方に対しては、まず超音波検査や内視鏡・胃のレントゲン検査などを行って、胃炎・胃潰瘍・胆石などの一般的な消化器の病気がないかどうか調べます。
膵癌を疑った場合の血液検査では血中膵酵素や腫瘍マーカーを調べます。血中膵酵素には血清アミラーゼ、エラスターゼ1があります。膵癌に特異的ではないのですが、膵癌による膵管狭窄から引き起こされる随伴性膵炎のために異常高値となると考えられています。腫瘍マーカーはCA19-9 、Span-1、Dupan-2、CEAなどが膵癌診断や膵癌フォローアップに測定されていますが、早期膵癌の検出には有用ではありません。
画像検査の第一選択は簡便で非侵襲的な超音波検査です。超音波検査で異常が見つかればCT検査やMRI検査に進みます。しかし、超音波検査では腫瘍径の小さな膵癌や膵尾側病変は描出することが困難なことが多いです。超音波では異常がはっきりしない場合でも、症状や血液検査のデータで膵臓や胆管などに病気のある可能性がある場合には、 CT検査やMRI検査を行います。CT検査は病変の大きさ、位置や拡がりが捉えられるばかりでなく、造影剤の造影効果により病変の血流動態が把握できることから質的診断において欠くことのできない検査です。
また、ERCPという検査を行う場合もあります。この検査は、胃カメラのような内視鏡を十二指腸まで運び、前に述べた十二指腸乳頭という膵管と胆管の出口に細い管を差し込み、造影剤を注入して膵管や胆管の形を調べるものです。この時に、膵液を採取して細胞の検査やがん遺伝子の検査を行うこともあります。最近では、MRIを利用してERCPと類似した情報を得ることができるMRCPという技術が普及しました。
さらに、必要があれば血管造影を行います。これは、足のつけ根の動脈から細い管を差し込んで、膵臓やその周辺に向かう動脈に造影剤を流し、血管の構造や病気による変化を調べるものです。
黄疸のある場合には、まず超音波検査で胆管がつまっているかどうかを確認します。胆管がつまって太くなっている場合(閉塞性黄疸)には、超音波で観察しながら肝臓の中の胆管に針を刺し、これを利用して細い管を胆管の中に入れます。この管から造影剤を注入すると胆管がどこでつまっているかわかります。これをPTCといいます。また、この管から胆汁を外に流し出すことにより黄疸を治療することができます(PTCD)。また、閉塞性黄疸に対しては、内視鏡を用いて胆管の出口(十二指腸乳頭)から胆管の中に管を入れる方法(ERBD)が選択されることもあります。

5.病期(ステージ)

 膵癌がどの程度進んでいるかをあらわすには病期(ステージ)というものが使われます。治療方針の決定や予後判定に用いられます。病期はIからIVの4段階に分類されています。
【日本膵臓学会】 第6版 2009年度より

I期
大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局しており、リンパ節転移のない。
II期
癌は膵臓の内部にとどまっているが大きさが2cm以上であるか、2cm以内であっても第1群のリンパ節に転移がある。
III期
癌は膵内胆管、十二指腸、膵周囲組織に及んでいるが、リンパ節転移はないか、第1群までに限られている。または、癌は膵臓の内部にとどまっているがリンパ節転移は第2群まである。
IVa期
癌が膵臓に隣接する大血管、膵外神経叢、多臓器に及んでいる。
Ⅳb期
膵臓から離れた臓器(肝臓、腹膜、肺など)に転移がある。

6.治療

膵癌の治療には主なものとして外科治療・放射線療法・化学療法(抗癌剤)の3つがあります。腫瘍の進行程度と全身状態などを考慮して、これらの1つ、あるいはこれらを組み合わせた治療(集学的治療)が行われます。

1)外科治療(手術)
癌を含めて膵臓と周囲リンパ節などを切除する方法です。膵癌の治療の中では最も確実な治療法となります。膵癌の位置によって以下のような方法が選択されます。ただし、肝臓に転移を認める場合や、主要な動脈に癌の浸潤を認める場合は手術以外の治療法の対象となります。
a) 膵頭十二指腸切除
膵頭部を中心に癌がある場合に、十二指腸・胆管・胆嚢を含めて膵頭部を切除します。胃の一部を切除する場合と、胃をすべて温存する場合があります。門脈という血管に癌の浸潤が疑われる場合は、門脈の一部も合併切除して再建することで、癌の切除は可能です。切除後には膵臓、胆管、消化管の再建が必要となります。
b) 膵体尾部切除
膵臓の頭部よりも尾側に癌がある場合に、膵臓の体尾部と脾臓を一緒に切除します。切除後の消化管の再建は必要ありません。
c) 膵全摘術
癌の範囲によっては、膵全摘術といって、膵臓のすべてを切除する手術が必要となる場合もあります。ただし、術後には血糖を調整するために、インスリンの注射が必ず必要となります。
d) その他
癌を切除することはできない場合でも、十二指腸など閉塞して食事がとれなくなるのを防ぐための胃と小腸のバイパスや、黄疸が出ないようにするための胆管と小腸のバイパス手術を行うことがあります。

2)放射線療法
放射線療法は放射線を患部に照射してがん細胞を壊そうとする治療です。通常は身体の外から放射線を照射する外照射を行いますが、手術中に腹部の中だけに放射線を照射する術中照射という方法を用いることもあります。 また、抗癌剤と併用されることがあり、その場合は、化学放射線療法と呼ばれます。膵癌に対する放射線療法には、通常X線が用いられています。

3)化学療法
化学療法は抗癌剤を使って癌細胞を殺そうとする治療です。通常は塩酸ゲムシタビンの単独投与静脈が多いのですが、経口の抗癌剤が使用されることもあります。またいくつかの抗癌剤を組み合わせて使用することがあり、併用化学療法と呼ばれます。

4)その他
その他の治療としては、温熱療法や免疫療法などが試みられていますが、はっきりした効果は確認されていません。新しい治療が試みられる場合は、通常、効果と安全性を調べることを目的とした臨床試験として行われます。

5)緩和治療
膵癌は、痛みや嘔気などの症状を伴うことが多く、これらの症状を和らげるために、緩和治療が行われます。

7.膵内分泌腫瘍とは

 前述しましたように膵臓には消化酵素を作る外分泌腺とホルモンを作る内分泌腺があります。この内分泌腺細胞は集塊を作って膵臓内に存在します。この内分泌腺の集塊をランゲルハンス島と呼びます。このランゲルハンス島の細胞から発生する腫瘍を膵島腫瘍といい、膵臓腫瘍全体の約10%を占めています。
膵島腫瘍はホルモンを産生するかどうかによって機能性腫瘍と非機能性腫瘍に分類されます。膵内分泌腫瘍は膵島腫瘍のうちホルモンを分泌する機能性腫瘍をさしています。インスリンを産生するインスリノーマ、グルカゴンを産生するグルカゴノーマなどがあります。過剰に分泌されるホルモンによってインスリノーマでは低血糖発作、グルカゴノーマでは高血糖、糖尿病となります。治療は外科的摘除です。
最後に膵島腫瘍は2010年改定のWHOの分類では膵神経内分泌腫瘍(PanNETs)として扱うようになったことを付記しておきます。

8.膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞性腫瘍(MCN)とは

膵癌 近年、超音波検査、CT検査、MRI検査の普及により特に症状がなくても膵臓の内部や周囲にできた様々な大きさの『袋』が偶然発見されることが増えています。このような病変を膵嚢胞性病変と呼びます。
膵炎に関連する偽性膵嚢胞、漿液性膵嚢胞腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍があります。
このうち膵管内乳頭粘液性腫瘍と粘液性嚢胞腫瘍について簡単に述べます。

1)膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Neoplasm = IPMN)
IPMNは膵管内上皮からに発生し乳頭状に増殖する腫瘍で、粘液を産生します。この粘液が貯まって肉眼的に観察される程度に膵管が拡張し、『袋状』を呈します(CT、MRIや超音波で見られます。)。拡張膵管の部位により主膵管の拡張が主体となる主膵管型、分枝膵管の拡張が主体となる分枝膵管型、両者が拡張する混合型があります。IPMNは種々の異型を示す上皮性腫瘍で、膵管内乳頭粘液性腺腫、非浸潤性膵管内乳頭粘液性腺癌、浸潤性膵管内乳頭粘液性腺癌に分けられます。簡単に言えば良性から悪性まで様々なものがあります。主膵管型のIPMNの30~50%に浸潤癌が見られます。分枝型では3センチ以上になると悪性の可能性が高くなります。

2)粘液性嚢胞腫瘍(Mucinous Cystic Neoplasm = MCN)
MCNは粘液を貯めた単~少数の嚢胞よりなる腫瘍で、中~高年女性に好発し(IPMNの発生には男女差がありません。)、男性例は極めて稀です。膵尾部に孤立性に大きな嚢胞を形成することが多く、嚢胞内に隔壁を有することがあります。腺腫、非浸潤性腺癌、浸潤癌に分けられます。他の腫瘍と鑑別に有用なのがエストロゲンレセプターやプロゲステロンレセプターが陽性の卵巣様間質が特徴的です。

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